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マレーシアより愛をこめて 第22回

ガスパールの卒業

iPhone Duoは、買わない

折りたたみを50台使った私が、折りたたみをやめたら幸せになった話

8年間で50台を超える折りたたみスマートフォンと付き合ってきた。そして、ついに別れた。話題のiPhone Duoにも、戻らない。そうしたら、幸せになった。

ガラスケースの中に飾られた、3つ折りのスマートフォン
ガラスケースに飾られた3つ折りのスマートフォン。まるで宝石のように展示されていた。私は、これも買った。 Photo: メイド理世, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

折りたたみからの卒業

日本語の「卒業」には、好きだったものから潔く離れる、という意味もある。アイドルから卒業する。夜更かしから卒業する。

私は、折りたたみスマートフォンから卒業した。在学期間は、ざっと8年。付き合った機種は、50台を超える。その半分以上は、日本では発売されていない。親に紹介できない恋人ばかりだった。

50台の元恋人

最初の恋人は、2018年に世界で初めて売り出された折りたたみだった。今とは逆に、画面を外側にして折りたたむ。閉じても顔がむき出し、という大胆な人だった。作った会社は、その後あっさり破産した。最初の恋は、だいたい長続きしない。

それから8年、新作が出るたびに付き合った。開けば画面が倍になる。人に見せれば、必ず「おお」と言われる。50回くらい「おお」と言われた。

手のひらの上で開かれた、折りたたみスマートフォン
開いた折りたたみ。この「開く」という一手間に、私は8年間、毎日何十回もつきあった。 Photo: Vasonesiku, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

卒業の直前まで付き合っていたのは、OPPO Find N6、Galaxy Z Fold8、Xiaomi 18 Foldの3台。どれも、その年いちばんの出来だった。別れは、案外いちばんいい時期に来る。

展示台に並ぶ、最新の折りたたみスマートフォンの数々
2026年の最新の折りたたみたち。新作が出るたびに、元恋人が一人ずつ増えていった。 Photo: Dinkun Chen, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

別れの理由

別れてみて、分かったことがある。

まず、開かなくていい。一日何十回の開け閉めから解放された指が、驚くほど暇そうにしている。

次に、軽い。2枚分の画面と蝶番を持ち歩かなくていい。ポケットが一段、浮き上がった気がする。

そして、電池が持つ。夕方に充電できるカフェを探してさまよう、あの小さな漂流が無くなった。

決定的だったのは、世の中のアプリやWebサイトが、ほとんど縦長の画面のために作られていることだ。正方形に近い大画面で開くと、左右に余白がぽっかり空く。私は8年間、世界の設計図と逆向きに暮らしていたのである。

3台持ちの男

写真家としては、もう一つ不満があった。折りたたみは、薄さと引き換えに、カメラがどうしても控えめになる。そこで写真用に、1インチの大きなセンサーを積んだスマートフォンも持ち歩いた。一時期は、ポケットに3台。ちょっとした携帯ショップだった。

ある日、ふと思った。中判でもフルサイズでもないのに、なぜ私は1インチにこだわっていたのだろう。小さい者どうしの背比べである。そう思ったら、肩の力が抜けた。

新しい本命

そこへ現れたのが、OPPO Find X9 Ultraだ。気になったのは、センサーの大きさより、ハッセルブラッドの色だった。中判カメラの名門の色を、ポケットの1台で持ち歩ける。

大きな円形のカメラ部を持つ、スマートフォンの背面
OPPO Find X9 Ultraの背面。カメラが堂々と真ん中に陣取っている。遠慮という言葉を知らない顔だ。 Photo: 茅野ふたば, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
白いOPPO Find X10 Pro Maxと、オレンジの線が入った白い筒形のレンズ
こちらは、マレーシアで限定予約が始まったOPPO Find X10 Pro Max。レビュー用に配られたグローバル版を、いま評価している。背中にハッセルブラッドの名前、隣の白い筒は取り付け式の望遠レンズだ。新しい本命と付き合い始めたばかりなのに、もう次の候補が家に来ている。恋愛なら大問題だが、スマートフォンなら仕事のうちである。
黒い箱に収まった、筒形の望遠レンズとフード
こちらは300mm相当の超望遠ユニット。箱に収まった姿は、もうカメラのレンズそのものである。ポケットには入らないので、ここだけは鞄の出番だ。

写真家として、これは大きい。少し前まで、スマートフォンの写真はメモ書きで、作品はカメラで撮るものだった。今は、ポケットの1枚がそのまま作品の候補になる。第7回のASAI HOTELの写真は、実は全部これで撮った。カメラは家でお留守番だった。

ホテルのテラスから、湖と緑を眺める宿泊客の後ろ姿
第7回から。テラスから湖を眺める宿泊客。これも、ポケットの1台で撮った。
ソファ席のテーブルに置かれたコーヒーと、背景の柔らかなぼけ
第7回から。手前のコーヒーから奥まで、ふんわりとぼける。これが、ポケットの1台の仕事である。
窓の向こうに湖の光がにじむ、ホテルのラウンジ
同じく第7回から。窓の向こうに、湖の光がにじむ。

動画や本はHuaweiのタブレット、腰を据えた仕事はMacBook。全部を1台に背負わせるのをやめたら、それぞれの道具が急に機嫌よくなった。十徳ナイフで料理をするより、包丁とまな板のほうが楽なのである。

iPhone Airは、銀行のアプリだけを入れて、自宅かホテルに置いておく。名前どおり、空気のように軽い金庫だ。持ち歩くのは、1台だけ。ポケットの携帯ショップは、閉店した。

展示台に立てられた、黒いiPhone Airの背面
iPhone Air。いまは、わが家の空気のように軽い金庫として、ほぼ外出しない。 Photo: Ahmad Ali Karim, CC0, via Wikimedia Commons

iPhone Duoと、ガラパゴス

そうこうするうちに、アップルもついに折りたたみを出した。iPhone Duoである。友人のものを借りて開いてみた。そして、すぐに閉じた。私にはもう、要らない。

「iPhone DUO」のロゴの上に置かれた、半分開いた折りたたみのiPhone
クアラルンプールのアップルストアで、発売の日に展示されたiPhone Duo。天気の表示も、ちゃんとクアラルンプール。よくできている。それでも、私の指は開く儀式に戻りたがらなかった。 Photo: Ahmad Ali Karim, CC0, via Wikimedia Commons

断っておくと、私は根っからのアップル好きである。2008年にソフトバンクがiPhoneを日本で売り出す前から、初代iPhoneを電話ではなく、予定や連絡先を持ち歩く端末として使い始めた。それから、iPhone 17 Pro Maxまで、全部買ってきた。

ドックに立てられた、初代iPhone
初代iPhone。日本ではまだ電話として使えなかったころ、私にとっては、予定と連絡先を持ち歩く、ちょっと未来の道具だった。 Photo: Andrew from London, UK, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

その私が、iPhone Duoはおろか、iPhone 18 Pro Maxも買うつもりがない。かつてのiPhoneは、技術の挑戦者だった。今は、中国のブランドが4年ほど前に通った道を、無難に後から歩いている。少なくとも、私の目にはそう見える。アップルが「まったく新しい」と胸を張って発表するものの多くは、私には、ずいぶん昔の話に聞こえてしまう。大げさに言えば、1世紀くらい前の話である。50台の折りたたみと付き合った男の時計は、どうやら少し早回りしているらしい。

日本では「36万円は高すぎる」という声が多いらしい。けれど世界40か国で比べると、日本は5番目に安い。そもそも中国で売れている高級スマートフォンの多くは、高すぎて日本にやって来ない。日本の「高い」は、少しだけガラパゴスなのである。もっとも、50万円を超える3つ折りを何度も買ってきた私の物差しは、とっくに折れ曲がっているのだが。

それでも、世界でいちばんたくさん折りたたみを開いて閉じてきた一人として(たぶん)、心からエールを送りたい。皮肉ではない。元恋人の幸せを願うのは、別れ話の正しい結び方である。

ガスパールの卒業

映画『卒業』の最後、花嫁を連れ出した二人はバスに飛び乗る。最初は笑っているのに、走り出すにつれて、だんだん「これでよかったのか」という顔になっていく。

私の卒業は、今のところ笑顔のままだ。開かなくていいスマートフォンは、思っていたより、ずっと気楽だった。

これからも、新しい折りたたみが出たら、一度は手に取ると思う。元恋人の新作は、やはり気になる。手に取るだけである。たぶん。。。

参照した資料

  1. Wikipedia「Royole FlexPai」(初の市販の折りたたみ、外向きに折りたたむ7.8インチ画面). wikipedia.org
  2. Display Daily「Pioneering Foldables Company Goes Bankrupt」(2024年11月、Royoleの破産清算). displaydaily.com
  3. MacRumors「Foldable iPhone Duo Will Start at $2,000, Won't Launch Until at Least October」(2026年9月9日). macrumors.com
  4. ITmedia Mobile「iPhone 18 ProとiPhone Duoの価格、日本は海外より安い? MM総研が40の国・地域で販売価格を調査」(2026年9月15日、日本は36万4,800円で5番目に安い). itmedia.co.jp
  5. ITmedia Mobile「OPPO Find X9 Ultra日本上陸」(2026年7月8日発売、27万4,800円。最上位モデルはこれまで中国国内が中心). itmedia.co.jp
  6. マイナビニュース「オッポ、ハイエンドモデルを日本に投入する狙い」(価格が高く販売数が見込めないハイエンドモデル). mynavi.jp
  7. GSMArena「Oppo Find X9 Ultra」(2026年4月21日発売、2億画素カメラ2基、10倍光学ズーム). gsmarena.com
  8. GSMArena「Oppo Find X9 Ultra battery capacity officially teased」(7,000mAh超の電池). gsmarena.com
  9. Android Update Tracker「Oppo Find X9 Ultra tech specs」(6.8インチ). androidupdatetracker.com

画像:Huawei Mate XT Ultimate Design:Photo: メイド理世, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons / Samsung Galaxy Fold 5:Photo: Vasonesiku, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons / SAMSUNG Galaxy Z Fold 8 Ultra, SAMSUNG Galaxy Z Fold 8 & SAMSUNG Galaxy Z Flip 8:Photo: Dinkun Chen, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons / OPPO Find X9 Ultra rear:Photo: 茅野ふたば, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons / Space Black iPhone Air:Photo: Ahmad Ali Karim, CC0, via Wikimedia Commons / IPhone Duo launching at Apple Store TRX 16:Photo: Ahmad Ali Karim, CC0, via Wikimedia Commons / Original iPhone docked:Photo: Andrew from London, UK, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

第7回から再掲した写真3点は、筆者がOPPO Find X9 Ultraで撮影。OPPO Find X10 Pro Maxと望遠レンズの写真2点も筆者撮影。本稿は筆者の個人的な使用感にもとづく見解です。